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生きる。誰の心にも残らずに。 - 「余命10年」/ 小坂流加

by kikoko


生きられる時間があとどれくらい与えられているのかが明確に分かっているとき、自分は、「終わり」と向き合えるのだろうか。


「生きている今」、自分の周囲の人間と決別しないと『私』はきっと崩れてしまう。主人公『茉莉』を取り巻く環境は、彼女のゆっくりと近づく死とは関係なく変わっていく。私が生きていることと、友だちの結婚はいわば何の関連もないのだ。だから、彼らの記憶の中の私は「良い」ものであって欲しい。

どうせ私は10年で死ぬ。ならば大切なものはつくらずに死ぬ。そう決意をした彼女の心に、無邪気に入り込んでくる小学生時代の同級生。同窓会を機に会うようになっても、茉莉は常に彼に嘘を重ね続ける。

いつしか私の心が彼で一杯になっていくことに気づき、自分が逃げられない死へと向かっていっていることを初めて後悔する。
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私が彼に病気のことを初めて伝えたとき、ようやく分かった。
彼は生きることができる。
私が死んだあとにまで、彼の人生に私は必要ない。私は、死んだ私を悲しんでいつまでま引きずるあなたより、笑顔で生き生きとしてるあなたを見たいんだと。

そんなことは露も知らない彼『和人』は彼女に結婚しようと愛の告白をする。
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自分が心から愛する人間が、自分には絶対変えられない運命に苦しんでいると分かったとき、それでも人はその人と一緒になりたいと願うのだろうか。

受け入れられない最愛の人間の死に際し、新たな人生を歩む決意をできるのだろうか。

茉莉は願った。
「最愛の人には私の綺麗な姿を最後に別れてほしい。」

全く特別なことはない、ただ、日常に病気がついているだけで。そして、自分の命の長さが分かっているだけで。
ファンタジーの要素もSFの要素も、二人を包む奇跡のような出来事も起こらない、そんなありふれた日常が描かれた世界だからこそズシッとくるものがある、そんな作品でした。
死と未来という相反する二つの事象が丁寧に綴られていて、あっという間に読み終えちゃった。良い。


kikoko
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